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データという混沌のなかに無限の可能性がある【投資家・村口和孝氏×グラフ代表・原田対談(後編)】

前回に引き続き、投資家の村口和孝氏とグラフ代表の原田博植の対談をお送りします。

後編では、昨年村口さんが取締役就任したことを受けて、今後のグラフに期待することから、成長する組織や起業家に求められる姿勢とは何たるかということまで伺いました。

前編はこちら▶︎



取締役就任は会社としての構造を整える第一歩



──村口さんには昨年度グラフの社外取締役にご就任いただきました。このタイミングを選ばれた理由などお聞かせいただけますか。



原田:会社として規模が大きくなっていくなかで、組織としての形を固めていくために、一番最初にご相談すべき方だと思っていました。
一方で、村口さんはすでにさまざまな企業で役員を務めていらっしゃって、そういう依頼も多いでしょうから、なぜ受けていただけたのかを私も知りたいです。



村口:2018年は、役員会というのを施行する時機だというのをすごく感じたんですよね。「株式会社」としての基礎工事をグラフでもやる段階だと。
出資した時点では、事業としてやるべき作業が山のようにあって、できるだけ早くそこに着手することを優先する必要があったんですね。そのためには会社としての形は必要なかったし、むしろない方が無限の可能性があった。ところがある程度続けてくると、今度は構造がないほうのデメリットが大きくなる。グラフでも株式会社としての最低限の躯体をつくっていく段階だと思って、そのための基礎工事を始めたというところかな。



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成長する組織には"飛躍"が存在する



──株式会社としての基礎工事が始まり、実際に社内のメンバーもデータサイエンティストだけでなく、バックオフィス人材まで充実してきて、さらなる成長の準備が整っている感があります。村口さんが考える「成長する組織」について伺ってみたいのですが。



原田:うん、これはぜひ伺いたいですね。


村口:本当の意味での成長というのは、連続的な成長だけでなく、非連続的な偶発的なできごと......言うなれば、"飛躍"というものが必ず存在します。この"飛躍"というのは、未知との遭遇であったり、制御不能な次の進化であったり、本当に自分でも想像しないかたちで起こるんですね。

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村口:会社組織だけでなく、人生にもそう言った飛躍のステージが必ずあるはずで、連続的な成長だけを目指していては、それに出会うことはできません。まず未来に向けて気持ちが開いていなければならないし、偶然の出会いを受け入れていく楽観さ、そしてそれに対する感謝の気持ちも大切です。

会社組織ではやはり起業家自身の考え方が重要で、すごく逆説的ではありますけど、優れた起業家は実際に飛躍のマネジメントをしていますよね。うまく節目を作っているというか。
グラフでも、成長モデルだけでなく、飛躍モデルを意図的に内包して、実際に遭遇したときに、それを受け入れる体制とキャッチアップできるだけの力を備えておければと思っています。それを繰り返して行くことがグラフの歴史にもなっていくのではないでしょうか。

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原田:飛躍については、私もまさに考えていたところです。
飛躍にはある種の楽観さが必要だという話がありましたが、私も昔から「悲観は気分、楽観は意志(※)」という言葉を大事にしています。人間にはちょっとしたことで悲観的になりやすい側面がありますよね。仕事で地位を築き上げてきた人でも、逆にその立場に縛られて、変化をリスクと捉えてしまうようなことがある。変化が内包するものは必ずしもリスクだけではないのに、予測モデルが現状維持のためのコントロールに捉われてしまうのは本当にもったいないことだと思うんです。
これまで得てきた成功体験を繰り返すという、ある種勝ち逃げのようなパターンを選び続けるやり方もあるかもしれませんが、それだけではモデルが強くならない気がしますね。これも無意識に陥る場合がほとんどで、自分で自覚するのはとても難しいことです。

だから、本当に失敗することが大事です。シミュレーションを超えて怪我をする。途中で失敗しても、最終的にそれを成功モデルに組みこんでいけばいい。そう思って、ネガティブ思考に陥りそうなときほど、意識的に楽観に持ってくるようにしています。

(※)フランスの哲学者であるアランが『幸福論』のなかで「悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意志によるものである」と述べたもの。


村口:起業家は発展のプロセスの中で、すべき失敗は一通りしておくべきだと思います。もちろん、真剣に挑戦した結果としての失敗でなければ、次の飛躍につながるような重要な気づきは得られない。そのことには注意が必要ですが。その点、原田さんの場合は、マーケットが荒れ野になっているから、大変だなと思っているんですよね。みんなが失敗できることを十分に失敗しきれないまま、膨大なやるべきことに立ち向かわなくてはならないと思うので。
投資家が「失敗してね」というのも変な話だけど、社員が10人くらいまでの間に、いくつか大事な失敗はしておいて欲しいな、とは願っています(笑)

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これまでの試行錯誤すべてがグラフの強み



──取締役就任時に「AIは道具で、ビッグデータはコンテンツにすぎない。重要なのは使い手側の知恵だ」というコメントもいただきました。使い手側であるグラフの今後に、どのような可能性を感じますか?



村口:コンテンツであるデータは莫大に収集されるわけですけど、それを活用するためのAIのアルゴリズムもまた、無限通りにあるわけです。音符の数は限られているのに、何百年も前から新しい曲が作られ続けているでしょう?
俳句にしたって、演劇にしたって同じです。広義の情報空間も同じで、無限のデータと無限のアルゴリズムという無限の選択肢があるなかで、どうやって人間にとって価値のあるものを生み出していくか。これは考えただけでも大変なことですよ。
そういったことが今後は企業にとって避けて通れないものになっていきます。そして、音楽や演劇という領域でも優れた作曲家や作家がいるように、情報空間のなかでアルゴリズムをつくり出すこともまた、センスと経験が求められます。
けれど現段階でそれを十分に経験している人は多くない。原田さんは日本においてそれができる一人だと思っていますし、グラフという会社に期待するところでもあります。

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データをうまく扱えば、人類はもっと幸せになれる



──最後に一言ずついただけますか。



村口:データの収集の方法はあっても情報量が膨大すぎて、それを事業活動のなかで、どうやってさらなる付加価値を生み出すために活用していくのか――この問題にあらゆる企業が直面していますよね。それをマネジメントできる人や事業体が少なすぎて、データのビジネス活用自体に後ろ向きな議論もあるくらいです。情報をうまく活用することで、もっと人類が幸せになれる未来が見えているのに、このネガティブ思考はどうしたものかと。
人々が抱えている問題が巨大であればあるほど、それを解決できる人や企業の活躍できる場は広い。そして、それが私自身の過去の投資の成功実績でもあります。

グラフには、こうしたデジタル化の大激変のなかで、さまざまなソリューションを提供できるチームであり、会社になっていってほしいなと思っています。

原田:これは私の信念であり確信なのですが、人工知能というものは、人間がいまの能力を超えるために生まれたものだと思っています。
これまで自分たちができるようになったことを均質化し一般化して、他のものにやらせる。そうやって自らを追い込むことで、さらなる進化を遂げようとしていると。

長い歴史のなかで先人たちが築き上げてきた土台のうえに立って、人間のエネルギーを最大化できるのはどこなのか、ということはこれからも考えていくことですし、この先の人間たるものに食らいついていけるような人たちが、大きな規模で集まる組織にしていけたらと思っています。

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