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データという混沌のなかに無限の可能性がある【投資家・村口和孝氏×グラフ代表・原田対談(前編)】



データ爆発時代の到来と言われてすでに久しく、今やあらゆる企業がデータを活用したビジネスの創出に取り掛かっています。
「データがただ在るというだけでは、混沌にすぎない」このように語るベンチャーキャピタリストの村口和孝さんは、昨年グラフの社外取締役に就任していただいた御仁。ご縁は、2016年当時まだ原田1人だったグラフに出資していただいたことに始まります。

今回は、社会におけるデータサイエンスの現状と、そのなかでグラフが担う役割や目指すかたちについて、村口さんとグラフ代表の原田に聞きました。



伝説的投資家はグラフ代表原田をどう見たか



──まずはベンチャーキャピタリストのレジェンド的存在である村口さんが、グラフに出資してくださった経緯について伺っていきたいと思います。



原田:出資を募っている時期に、知人にご紹介いただいたのがそもそもの始まりです。ご決断いただくまでに1時間のお打ち合わせを2回頂戴しましたが、原田が生粋のエンジニア畑出身でファイナンス界隈の事前知識が皆無だったため、失礼にも最初は村口さんの経歴についてまったく情報がない状態でした。
むしろお打ち合わせのその後、同時期にご興味をいただいていた他の投資家の方々の口から、村口さんの目も眩むようなレジェンドを伺って、社会的なお立場を認識したという有様でした。
そんな状況でしたので、初めての面談では、村口さんの活動の基盤にもなっているシェイクスピアと、私の領域であるデータの間に「言葉」という共通項があるという話を、1時間のお打ち合わせのうち45分間に渡り(!)楽しませていただいたことをよく覚えています。



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村口和孝氏 プロフィール
株式会社日本テクノロジーベンチャーパートナーズ 代表取締役社長
慶應義塾大学経済学部卒業。証券系VC入社。アインファーマシーズ、ジャパンケアサービス、ブロッコリー(サブカル系初 上場)の創業期など、日本のVC業界で、長期の未来フロンティアに投資し、回収する先進的実績作る。1998年独立し、日本初の個人型投資事業有限責任組合設立。主な成功例に、DeNA、インフォテリア、プレミアムウォーター、阿波製紙、ライフロボティックス、テックビューロ、IPS、グラフ、電脳交通、モーデックなど。2006年ふるさと納税を新聞紙上で提唱。1999年に開発して始めた起業体験プログラムがJPX社会貢献活動に採用されているなど起業教育分野でも実績がある。




村口:シェイクスピアの戯曲では、あらゆる情景描写がすべて台詞に仕立てられていて、それを演じる人間が実際に怒ったり笑ったりしながら言うことで、言葉を立体的なものに仕上げていくんです。データサイエンスもプログラミング言語で構成されており、もとは「言葉」だと。そういう意味で解釈が通じるところがある、という話はしましたね。



──初対面の時はどのような印象をお持ちでしたか?



村口:原田さんに最初にお会いして思ったのは、データの世界をちゃんとやってきた人だな、ということですね。日々データが爆発的に増えていく中で、ごみデータも一緒に増えている。そのデータの混沌に対して意味のある整理をするというのは、大変なことだと思うんです。原田さんはそこに向き合ってきた人だな、と。
特にグローバルで成功した外資系スタートアップと、国内最大のサービスを幾つも展開するリクルートグループという、極めて性質の異なる、しかしどちらも在籍時に最も高い熱量を持っていた膨大な情報の海に実際に向き合ってきたわけだから(2社とも原田が在籍中にNASDAQと東証一部に上場)。職人としてのリアリティというか、プロフェッショナリティというか......そういう部分はお話をして、すぐにわかった感じがしました。



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株式会社グラフ代表 原田博植 プロフィール
シンクタンク、外資ITベンチャー、リクルートにてデータベースの収益化を立案・実装し、2014年にリクルート初のチーフデータサイエンティストに就任。同年、データサイエンス業界団体である丸の内アナリティクスを立ち上げ主宰する。
翌2015年に日経データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤーを受賞。
早稲田大学 創造理工学部 招聘教授に就任の実績と、経済産業省のGAFA対策の戦略検討を目的とした研究会「第四次産業革命に向けた競争政策の在り方の研究会」の民間8名のみの委員の一人として貢献。
著作には「データサイエンティスト養成読本」 (技術評論社)がある。
2016年10月より株式会社グラフを組織化、現在に至る。




原田:予備情報はなかったものの、村口さんのこの「わかった」が持つ凄みというのは、最初お会いした時から感じていました。直観とか、嗅覚とか、一般的にそういう言葉で表現されるものを、私はデータサイエンスでいう「モデル」だと信じています。外からは見えないブラックボックスだけれども、その方の経験によってパターン認識が強化されている人工知能分野で語られる強化学習そのものに他なりません。
投資家の方は優れた結果を出すために、ご自身の構築したモデルに、一瞬で複数の情報を通して、素早く判断していると思うんです。私は村口さんが持つモデルの鋭さというか、その精度の高さを初対面の会話の中で感じました。
その後、ご実績を様々な方から伺って、自分の直感にも確信が持つことができ、謹んで出資をお受けするにいたりました。



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実行家こそがフロンティアを切り拓く">実行家こそがフロンティアを切り拓く



──村口さんにお聞きします。グラフはまだ組織化の途上であったにも関わらず、出資にいたった決定打というのはありましたか?



村口:現代はデータが爆発的にあふれかえって、生活あるいはビジネスにどう溶け込んでいいかわからない混迷が世界的に広がっています。これは言ってしまえば、人間がコンピュータという情報機器と向き合ってこの方、いまだに折り合いがついていない問題なんです。データというコンテンツは無限に収集されるから、もはや人間では処理しきれないほど存在して、しかもそれが毎日毎秒ごとに増えていっているわけです。
ところが、それに法律や権利、契約が絡みついているから、必ずしも企業がすべてを自由に使える体系になってはいない。その中から、人間あるいは企業などの事業体にとって有意義な整理をして、AIという道具を使いながら、「解」を出し続けていかなければならない
これはまさしく混沌ですよ。だからこそ、無限の可能性があるわけです。



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いうなれば、創業期のDeNAに投資したとき、(DeNA創業者の)南場さんに会ったときに頭の中で感じた感覚と似ているな、というのは思いましたね。(※)
まだビジネスモデルがはっきりしていない、未開発な状態の可能性といいますか。原田さんがそういったフロンティアを切り拓いていける人だと確信できたことは、出資を決めた理由として大きな部分です。


(※)村口さん率いるベンチャーキャピタルの日本テクノロジーベンチャーパートナーズは1999年創業当時の社員4名であったDeNAに出資した実績を持つ。

原田:ありがたいことですね。データベースや人工知能が今後世の中のインフラになるという確信は以前から持っており、個人のキャリアにおいて意識的にその戦場を選んできました。
組織であるグラフのミッションは、より大きなスケールでデータベースや人工知能を社会の「土」として耕していくことだと思っています。シングルサービスでやっていくのが今のスタートアップのスタンダードですが、私は自分がそのタイプではないということは自覚しています。実装するサービスについては、グラフが耕した土を足場にして、本気でそれをやりたい他のプロダクトオーナーと協働していくということも、今後必要になってくると思っています。

一方で、データベース活用や人工知能開発こそがグラフのコアコンピタンスであり、そこでは絶対に負けないという思いがあります。そういう点で、村口さんの投資実績を知る以前から、DeNAという企業や南場さんご自身の持つ骨太さに、心から尊敬の念と共感を覚える部分があります。



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村口:テーマがメジャーになればなるほど、様々な言説が飛び交うようになりますが、評論家と実行していく人というのは本質的に異なります。理論も必要、けれど実際に人が使えるものを創って、それが社会で使われていかなくては進化していきません。
南場さんにとってのITがそうであるように、原田さんもデータを本質的な意味で人が使えるものにしていける人だと、そう思いました。



人類共通のテーマに、上場も非上場もない



──原田が「実行家」として築いてきた実績がやはり大きかったと。



村口:今や「ビッグデータ」や「AI」という単語自体がバズワードになりすぎて、それを使えばプレゼンテーションで高得点を取ることもできてしまいます。シェイクスピアの芝居でもそうですが、机上の空論を並べるのと、実際に舞台として実現することには千里の隔たりがあるわけです。そこにある戯曲を、実際に舞台に仕立てあげてみようと具体性をもって考えられるかどうか。
グラフで言えば、実際にビジネスの現場で動くものとして納品できるビジネスの体系を持っている。これはすごいアドバンテージだと思ったわけです。



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村口:大量のデータを前にあらゆる企業が困難に直面している──これは、日本や世界という枠組みを超えて、今や人類共通の課題でもあるわけです。広い経済社会のなかでこの成果を上げていこうというのは本当に大変なことですよ。ただ、やり続けていくことで世の中に与えるインパクトは確実に大きなものになると思う。
人類共通の視点をもって、普遍的なテーマに実直に向き合い、実際に使えるものを生み出していくこと。大事なのはその姿勢であって、世界に通用するかとか、上場か非上場かとか、そんなレベルの話ではないと思っています。もちろん私は投資家なので、当然上場も視野に入れていますが、名ばかりの上場ではなくて、まずは事業で成すべきことを成して、上場はその結果としてあるべきだと思います。原田さんにも、目先の業績や上場ばかりに捉われない大きな起業家になってほしいなと思いますね。



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原田:ありがとうございます。ある程度のフェーズで上場も視野に入れるべきかと思いますが、当然上場することによるデメリットもあるわけで。本当にそのタイミングが是かという見極めはしていかねばなりません。最初の資金調達の時もそうでしたが、目先の出資に飛びつくのではなく、本当にそれが必要なのかどうかは常に考えています。

村口:グラフには本当の意味でグローバルに活躍できる企業になってほしいし、それにふさわしいボードメンバーが集まって、パートナーとの関係性も広がっていけばいいよね。



後編はこちら ▶︎

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